波間の回想録
かつて、10代、20代、縁あって小さなヨットで外洋に乗り出すという生活をわずかだけれどしていた頃がある。
しばらくぶりに港について普通の生活に戻ると、何でもない人の営みがとてもとても愛おしく見えたりする。小さなことにえらく感動したり、笑ったり。その逆もあって、些細な言い争いや三面記事の事件や街で起こっていることが、たわいもなく思えたりしていた。
つい先日、久しぶりに波の音を聞きながら眠りについて、波の音で目覚めたら、そんな昔のことをふと思い出した。
心の奥の奥の奥にまだ隠れているザワザワとした痛みが、白波の満ち引きのザーーーーという音に同調して、奥の方でわずかにチリチリと響く。感じないふりをして他のことをすることもできるけれど、しばらく観察をしていると、チリチリとした痛みは、細かい波のしぶきと一緒に外気に蒸発している様に感じる。目を閉じると自分の体と外気と波の境目がわからなくなる様な錯覚。
確か、昔も夜の船を走らせているとこんな感覚があった。
でも、きっとこれは錯覚でも何でもないね。
今はそんな風に思う。
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