ほたるとねこの回想録
蛍の時期になると思い出す、忘れられない思光景があります。
もう20年以上も前、私は、イタリアのリグーリア海に浮かぶエルバ島
という小さな島に住んでいました。美しい海に囲まれた、岩でできた島で、
夏の時期が長く、サボテンの花や黄色いジネストラや
鮮やかなピンク色や赤のジェラニウムやブーゲンビリアが島中を彩り、
バカンスシーズンになると人口が倍に膨れ上がる、夏が良く似合う島でした。
そこで私は3夏をレストランの仕事をしながら過ごしました。
夜は、大概家に帰るのは深夜。毎日クタクタになって、
海辺のレストランから小高い山あいにある小さな家に帰るのですが、
その頃には民家の灯も消え本当に真っ暗。澄んだ空気の中で虫の声だけが空に響き、
上を見上げると満天の星空が広がっていました。
その頃、私は、近所の猫たちととても仲良くしていたのですが、
中でも、ビアンカと名付けた白い猫は、餌をくれることを良いことに、
毎日の様に家に帰る気配を察知すると草の茂みからどこからともなく走ってきて、
まるで飼い猫の様に懐いていました。
ある日、家にほど近い坂道で「ビアンカーー」と呼びながら歩いていると、
向こうの方から光るものがぴょんぴょんと動いています。何だろう?
と立ち止まって見ているとその光はだんだんリズミカルに近づいてきて、
ビアンカだということに気づきました。
体に沢山の蛍をつけて、まるで体に電飾を巻いている様....。
耳の先にも足にも長い尻尾の先まで蛍がくっついているので、
その光のシルエットは猫そのもの。動くと蛍が空気に舞うので、
真っ暗な暗闇の中で、何と幻想的で微笑ましく愛らしい光景だったことか!
お腹をすかしていたビアンカは、蛍を体中につけたまま
グルグルグルグルと喉を鳴らしていたのを鮮明に覚えています。
この季節になると、日本にいても蛍を見てみたいなーと思う反面、
さすがにあんな経験はもうできないだろうなあ、と思うのでした。
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